映画やテレビドラマのニュースでよく目にする「クランクアップ」。主演俳優が花束を受け取ったり、共演者やスタッフと記念撮影をしたりする様子とともに、「無事にクランクアップしました」と報じられることがあります。では、この言葉は具体的に何を意味するのでしょうか。
クランクアップとは、映画やドラマなどの映像作品で予定されていた撮影が終了することです。撮影開始を意味する「クランクイン」と対になる言葉で、出演者個人の撮影終了を表す「オールアップ」とは意味が異なります。また、英語圏では日本と違う表現が使われており、2026年3月の映画.comによる日米の映画制作現場の取材でも、この言葉の興味深い違いが取り上げられました。
【基本を解説】クランクアップとは?撮影終了の意味と制作現場での役割

クランクアップは、映画・ドラマなどの映像作品において、撮影工程が終了したことを示す映画・ドラマ撮影用語です。読み方は「くらんくあっぷ」。名詞としても動詞的な表現としても使われ、「クランクアップする」「クランクアップを迎える」といった言い方が一般的です。
小学館の『デジタル大辞泉』では、クランクアップを「映画で、撮影を完了すること」と説明しています。『精選版 日本国語大辞典』でも、一本の映画の撮影を完了すること、撮影終了という意味で掲載されています。
クランクアップは作品全体の撮影が終わった合図映画やドラマの制作では、脚本や出演者を決める準備段階を経て、実際の撮影に入ります。撮影期間中は、スタジオやロケ地でさまざまな場面を収録し、必要な映像素材を集めていきます。
そして、予定していた最後の撮影を終えると、現場ではクランクアップが告げられます。一般的には、最後のカットにOKが出た段階で、監督やスタッフから撮影終了が報告されます。
このタイミングは、出演者だけでなく、撮影監督、照明、録音、美術、衣装、制作部など、多くの関係者にとって一つの大きな節目です。長期間にわたって作品を作り上げてきたチームが、撮影工程を終える瞬間でもあります。
クランクアップは作品の完成を意味するわけではないここで間違えやすいのが、クランクアップと作品完成の違いです。
クランクアップは、あくまで撮影が終了したことを意味します。その後も編集、映像合成、色調整、音声編集、字幕制作などのポストプロダクション(撮影後の仕上げ工程)が続きます。
映像制作会社NAXAの用語解説でも、ポストプロダクションにはオフライン編集、オンライン編集、カラーグレーディング、VFX、MA、字幕、納品データの作成などが含まれると説明されています。
つまり、撮影が終わっても、映画館やテレビ、配信サービスで視聴できる状態になるまでには、まだ多くの作業が残っているのです。
【語源と由来】クランクアップは手回し式映画カメラから生まれた言葉
クランクアップの語源を理解するには、映画の撮影技術の歴史を知る必要があります。
「クランク」は昔の映画カメラの手回しハンドルクランク(crank)とは、もともと機械の回転運動などに使われるハンドルや機構を指す言葉です。無声映画時代の手動式映画カメラには、フィルムを送るための手回しハンドルが取り付けられていました。
撮影者はこのハンドルを回してカメラを動かし、フィルムに映像を記録していました。この動作に使われた部品が「クランク」です。
小学館の辞書でも、クランクには無声映画時代の手動式映画カメラに付いていた取っ手という意味が掲載されています。
クランクインとクランクアップの由来手回し式カメラの仕組みに由来して、日本では撮影の開始と終了を表す言葉として「クランクイン」と「クランクアップ」が使われるようになりました。
それぞれの意味は次のとおりです。
- クランクイン:撮影を開始すること。
- クランクアップ:撮影を完了すること。
英語のcrankに、日本語独自の「イン」「アップ」という組み合わせを加えた表現です。英語の語句を組み合わせて作られた和製英語であり、英語圏でそのまま同じ意味として通用する言葉ではありません。
2026年3月3日公開の映画.comの記事では、日米の映画業界を20年以上取材してきた映画ジャーナリストの小西未来氏が、この言葉の由来と英語圏との違いを解説しています。日本の撮影用語には、海外由来の言葉が独自の意味に変化したものが少なくありません。
【違いを比較】クランクイン・クランクアップ・オールアップの意味と使い分け
映画やドラマのニュースを読むとき、特に混同しやすいのが「クランクイン」「クランクアップ」「オールアップ」の3つです。
いずれも撮影現場で使われる言葉ですが、何を基準に終了や開始を判断するのかが異なります。
3つの撮影用語の違いを一覧で比較| 用語 | 意味 | 対象・使用場面 |
|---|---|---|
| クランクイン | 撮影開始 | 映画・ドラマなどの作品全体 |
| クランクアップ | 撮影終了 | 作品全体の撮影工程 |
| オールアップ | 担当する出演シーンの撮影終了 | 出演者個人 |
| ポストプロダクション | 撮影後の仕上げ工程 | 編集・音響・映像加工など |
| 完パケ | 納品できる完成状態 | 映像作品の最終仕上げ |
クランクインは、作品の撮影が始まることです。クランクアップとは反対の意味を持ちます。
例えば、映画の撮影初日に「本日、クランクインしました」と発表された場合、その作品の本格的な撮影がスタートしたことを意味します。
一方、「無事にクランクアップしました」という発表なら、予定していた撮影工程が終了したという意味です。
クランクインからクランクアップまでの期間は、作品の規模や撮影方法、ロケーション、出演者のスケジュールなどによって変わります。短期間で終わる作品もあれば、長期間にわたって撮影する作品もあります。
オールアップとの違いは終了する対象オールアップは、出演者個人が自分の出演シーンをすべて撮り終えた状態を表します。
例えば、全10話のドラマに出演している俳優が、自分の登場するシーンをすべて撮影し終えた場合、その俳優はオールアップです。
しかし、ほかの出演者やスタッフによる撮影が続いているなら、作品全体はまだクランクアップしていません。
そのため、出演者ごとにオールアップの日が異なることがあります。主要キャストのオールアップでは、監督や共演者から花束が贈られたり、本人が挨拶をしたりすることもあります。
東京エキストラNOTESの撮影用語解説でも、オールアップは出演者のうち誰かの出演シーンがすべて終了した状態、クランクアップは作品全体の撮影作業が完了した状態として区別されています。
【制作現場の実態】クランクアップを迎えるまでの流れと撮影終了後の仕事
クランクアップは、単にカメラを止めるだけの出来事ではありません。撮影現場では、最後のカットを撮り終えるまでに、さまざまな確認や調整が行われます。
最後のカットが撮影される撮影最終日には、残っているシーンや必要な映像素材を順番に撮影します。映画の場合、物語の最後の場面が撮影最終日に撮られるとは限りません。
映画やドラマは、出演者のスケジュール、ロケ地の使用条件、天候、セットの準備状況などを考慮して撮影順を組み立てます。そのため、物語の冒頭や中盤の場面が最後に撮影されることもあります。
最終カットのOKで撮影終了が告げられる監督が最後のカットを確認し、必要な撮影が完了すると、スタッフからクランクアップの報告が行われます。
東京エキストラNOTESの用語解説では、最終カットにOKが出た直後に撮影終了が告げられ、監督や主要キャストの挨拶などが行われることが紹介されています。
このとき、出演者やスタッフが拍手を送り、花束を贈呈することもあります。作品によっては記念撮影や簡単なセレモニーが行われる場合もあります。
クランクアップ後はポストプロダクションへ撮影が終わった映像素材は、編集や音響などを担当するスタッフに引き継がれます。
主な作業は次のとおりです。
- 編集:撮影した映像を物語の流れに沿って組み立てる。
- カラーグレーディング:映像全体の色味や明るさを調整する。
- VFX・合成:CGや視覚効果を加えて映像を仕上げる。
- MA:セリフ、音楽、効果音などを調整する。
- 字幕・テロップ:作品に必要な文字情報を追加する。
- 納品:放送局や配信サービスなどの指定仕様に合わせて完成データを作る。
このように、クランクアップは制作活動の大きな節目ですが、作品が視聴者に届くまでの工程はその後も続きます。
クランクアップ後に追加撮影が行われることもあるクランクアップの発表後に、追加撮影や撮り直しが必要になるケースもあります。
編集段階で不足している映像が見つかった場合や、演出上の理由で新しいカットが必要になった場合などです。こうした追加撮影は、一般にピックアップ撮影や撮り直しなどと呼ばれます。
したがって、クランクアップの発表があったからといって、その後一切カメラが回らないという意味ではありません。基本的には予定された主要な撮影工程が終了したことを知らせる表現です。
【使い方と例文】クランクアップは会話やSNSでどう使う?
クランクアップは、映画やドラマの制作現場だけでなく、芸能ニュース、インタビュー、SNSなどでも使われる言葉です。
特に俳優やスタッフが作品の撮影終了を報告するときに使われることが多く、撮影を終えた達成感や周囲への感謝を伝える表現としても定着しています。
日常会話での自然な例文映画やドラマの話題では、次のように使えます。
- 「主演映画が先週クランクアップしたそうだよ」
- 「長期間の撮影だったけれど、無事にクランクアップできてよかったね」
- 「この作品はクランクインからクランクアップまで約4か月かかったらしい」
- 「クランクアップ後は編集作業に入るみたいだね」
- 「ドラマのクランクアップが発表されたので、放送開始がますます楽しみになった」
これらはいずれも、作品全体の撮影が終了したことを表す使い方です。
SNSや芸能ニュースでの使い方SNSでは、撮影終了の報告に加えて、共演者やスタッフへの感謝を伝える文章と組み合わせることがよくあります。
- 「無事にクランクアップしました!最後まで支えてくださった皆さんに感謝です」
- 「大切な作品がクランクアップ。公開を楽しみにしていてください!」
- 「長かった撮影期間も今日で終了。最高のチームと一緒に作品を作れて幸せでした」
- 「映画のクランクアップ、おめでとうございます!」
上記は使い方を示す例文です。実在する俳優や作品の公式投稿を引用したものではありません。
オールアップを使った例文出演者個人の撮影終了を伝えたい場合は、クランクアップではなくオールアップを使います。
- 「主演俳優の撮影が本日オールアップしました」
- 「長い撮影期間でしたが、無事にオールアップを迎えました」
- 「共演者のオールアップをみんなでお祝いしました」
なお、オールアップは出演者個人の撮影終了を指すため、その時点で作品全体の撮影が終わっているとは限りません。
使うときに気をつけたい3つのポイントクランクアップを自然に使うには、次の点を意識すると間違いを防げます。
- 作品全体の撮影終了には「クランクアップ」を使う。
- 出演者個人の撮影終了には「オールアップ」を使う。
- 撮影終了と作品完成・公開開始を同じ意味として扱わない。
特に3つ目は重要です。撮影が終わった作品でも、編集や音響などの仕上げが終わるまでは完成作品として公開できません。
【英語表現を解説】クランクアップは英語で何と言う?
クランクアップを英語で表現するときは注意が必要です。日本では一般的な撮影用語ですが、英語圏では「crank up」を撮影終了の意味では使いません。
英語では「That's a wrap!」が代表的英語圏の映画制作現場では、撮影終了を知らせる表現として「That's a wrap!」が使われます。
意味は「これで撮影終了!」「これにて撮影完了!」というものです。
2026年3月の映画.comによる小西未来氏へのインタビューでは、アメリカの現場では監督や助監督が「That's a wrap!」と声をかけ、撮影終了を知らせると紹介されています。
また、特定の俳優の撮影が終わった場合には、「That's a wrap for ○○!」という表現も使われます。
「Finish shooting」「Finish filming」も使える撮影終了を説明的に伝えたい場合は、次のような表現も自然です。
- Finish shooting:撮影を終える。
- Finish filming:映画や映像の撮影を終える。
- Wrap production:制作の撮影工程を終了する。
- Principal photography has wrapped:主要な撮影工程が終了した。
例えば、「映画の撮影が終わりました」は「We finished shooting the film.」と表現できます。
英語の「crank up」は別の意味になる英語のcrank upには、エンジンを始動させる、音量や強度を上げるといった意味があります。
例えば、音楽の音量を上げる場合は「Crank up the volume.」という表現が使われます。
そのため、海外の撮影現場で「Crank up!」と言っても、日本語のクランクアップと同じ意味には伝わりません。
日本語のクランクアップと英語のcrank upは、見た目は似ていても意味が異なる言葉です。海外の映画関係者と話す場合には、「That's a wrap!」や「Finish filming」を使うと伝わりやすくなります。
【プロの結論】クランクアップで知っておきたい本当の意味とよくある誤解
クランクアップという言葉を正確に理解するうえで大切なのは、「誰の撮影が終わったのか」と「どの制作工程が終わったのか」を区別することです。
芸能ニュースで俳優の花束贈呈が報じられた場合、作品全体のクランクアップなのか、その俳優個人のオールアップなのかを確認すると、記事の内容を正しく理解できます。
よくある誤解と正しい理解- 誤解1:クランクアップすれば作品が完成している。
正しくは、撮影終了後にも編集や音響などの仕上げ工程が残っています。 - 誤解2:主演俳優がオールアップすれば作品全体も終了する。
正しくは、ほかの出演者やスタッフの撮影が続いている可能性があります。 - 誤解3:クランクアップは英語圏でも同じ意味で通じる。
正しくは、日本独自の撮影用語で、英語では「That's a wrap!」などを使います。 - 誤解4:クランクアップは映画だけに使う言葉である。
正しくは、テレビドラマなどの映像作品でも広く使われます。
特に覚えておきたいのは、クランクアップが作品の制作過程における一つの区切りだという点です。撮影現場に関わる多くの人々の仕事が形になり、次の仕上げ工程へと引き継がれるタイミングを表しています。
【よくある質問】クランクアップに関するFAQ
Q1:クランクアップとは簡単に言うと何ですか?
A1:映画やドラマなどの作品全体の撮影が終了することです。予定していた撮影を終え、撮影現場で一つの大きな節目を迎えたことを意味します。
Q2:クランクアップとオールアップはどちらが先ですか?
A2:一般的には、出演者ごとにオールアップを迎え、最後の出演者の撮影や必要な撮影作業が終わった段階で作品全体がクランクアップします。ただし、出演者の撮影終了と作品全体の撮影終了は別の基準です。
Q3:クランクアップしたら映画は完成していますか?
A3:必ずしも完成していません。クランクアップは撮影終了を意味し、その後に編集、映像加工、音声調整、字幕制作などのポストプロダクションが行われます。
Q4:クランクアップの反対語は何ですか?
A4:クランクインです。クランクインは撮影開始、クランクアップは撮影終了を意味します。
Q5:クランクアップは英語で何と言いますか?
A5:代表的な表現は「That's a wrap!」です。「Finish shooting」や「Finish filming」も撮影終了を伝える表現として使えます。「Crank up」は日本語のクランクアップと意味が異なるため注意しましょう。
Q6:クランクアップ後に撮り直すことはありますか?
A6:あります。編集上の都合や演出上の必要性によって、追加撮影や撮り直しが行われる場合があります。クランクアップは予定された主要な撮影工程の終了を示す言葉です。
クランクアップとは、映画やドラマなどの作品全体の撮影が終了することを意味する言葉です。昔の手回し式映画カメラに使われていたクランクに由来し、日本独自の撮影用語として定着しました。
覚えておきたいのは、クランクイン・クランクアップ・オールアップの違いです。
- クランクイン:作品の撮影開始。
- クランクアップ:作品全体の撮影終了。
- オールアップ:出演者個人の出演シーンの撮影終了。
また、撮影終了と作品完成は別の段階です。クランクアップ後にも編集や音響、映像加工などの仕事が続き、最終的な作品へと仕上げられます。
2026年現在も、映画やドラマの公式発表、俳優のSNS、エンタメニュースなどで使われるクランクアップ。言葉の意味だけでなく、その背景にある制作現場の流れまで知っておくと、出演者の報告や撮影終了のニュースをより深く理解できるようになります。
主な参照資料: 小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』、映画.com(2026年3月3日・日米映画撮影用語の取材記事)、東京エキストラNOTES「エキストラ用語帳」、NAXA「ポスプロ」。